JA福光(富山県) 米のATM
米農家が使う「米のATM」の記事がおもしろい。
地域ごとで営農の文化や戦略は違う。米のATMの話は、おもしろいアイディアだが、それ以上に地域の農業を長く発展もしくは維持させるヒントが読み取れた。
米どころ、富山県のJA福光には「ここにしかない」と自慢するものがある。カード1枚でカントリー施設から米を食べる分だけ引き出せるサービスだ。言うなれば、米の現金自動預払機(ATM)。使うのは他ならぬ稲作農家。うまい米がいつでも食べられると支持する。ミステリアスな話ではないか。
通常、農家は本格的に販売するなら自前の低温貯蔵施設を持つ。自家消費用だけなら冷蔵庫や涼しい納屋で保管する。JA福光管内では、稲作農家の7割に当たる700人強が米のATMを利用している。出来秋に1年間分の必要な量を設定し、玄米を10㌔、20㌔、30㌔の単位で無料で引き出せる。精米のときだけ10㌔100円かかる。品種は「コシヒカリ」の1種類。
カントリー施設は各農家が出荷した米を一括管理するので、自分が使った米を選べるわけではない。これがなぜ、農家に受けるのか、そしてJAが始めた狙いは何か。斎藤勇組合長に聞いてみる。「自家保有米管理システムと呼んでいる。カントリー施設のメーカーに開発してもらった。始まったのは1996年、四半世紀近い歴史がある。このサービスが続く理由は簡単に言えば、JAに米を全量出荷する農家が多いからだ。冷蔵庫代わりにJAのカントリー施設を使ってもらっている。米の集荷率は19年産で90%を超える。30年前からこの水準を維持している。」
米のATMができる前は、JA職員が自家消費用の米を紙袋に詰めて、農家に一軒一軒配達していた。結構な手間だったという。
つまりJA側から見れば、米の配達労力の省力化、カントリーの稼働率向上、高い集荷率の維持といった利点がある。では、農家にはどうだろうか。「メリットは何と言っても、うまい米を一年中、食べられることだ。もみで低温貯蔵しているので、精米すれば新米と変わらない風味がある。そもそも、農家は出来秋に新米をたべることはまずなかった。昨年産の残っている米を食べ終えてから、今年産に移るものだ。このサービスだと、出来秋から新米。しかも保管用冷蔵庫の導入費も電気代もかからない。これが支持される理由だ。」
農家こそ、うまい米を食べるべきだという視点が面白い。もう一つ驚くのは米の集荷率の高さだ。国が流通統制した食管時代ならいざ知らず、民間流通の今日、これは簡単なことではない。「この地域は集落営農に取り組むのが早かった。70年代前半、アルミ工場がいくつもできて農家が勤め出し、兼業化が一気に進んだ。ちょうど米の生産調整が始まったころ。将来、誰が田んぼをやるんだという危機感から、集落単位に協業的な米作りが始まった。90年代には集落営農の法人化にも取り組んだ。」
「今では管内の農地2500㌶の9割近くが56の集落営農組織・法人や個人の担い手に集約された。この取り組みと併せて、JAではカントリー施設の整備を進めてきた。先達の判断が優れていたと思うのは、地区ごとに造るのではなく、どの地区からもほぼ等距離の位置に施設を集約したことだ。米の集荷量の増加に合わせ、施設を増設してきた。現在5基を保有し年間1万2300㌧を貯蔵できる」
米のATMは、集落営農と高い農地集積・米集荷があればこそ可能だったのだ。
日本農業新聞 2020/5/9より