新規就農者向けの支援の要件に落胆の声

新規就農者向けの支援に波紋か、

制度を緩和すればよいというものではないが、もう少し検討の余地はあったのでは?と思う。

 

新規就農者向け支援事業 要件「前年所得600万円以下」に落胆の声
日本農業新聞より 2020年08月12日

農水省が今年度から、新規就農者を支援する農業次世代人材投資事業について新たに設けた交付要件が波紋を広げている。前年の世帯所得が600万円以下であることを要件とし、「切実な事情がある」場合は例外とした。交付主体が例外となるかを判断することになり、受給対象外となった若者からは落胆の声が上がっている。
「親元就農」「退職金」ネック
同省は同事業の実施要綱に、準備型と経営開始型ともに「前年の世帯全体の所得が600万円以下であること」を明記した。主業農家の年間農業所得の3年平均が600万円であることを踏まえ、「一定程度の収入がある人は対象外とし、より幅広い人を支援していく」(同省)とした。

ただ、要綱には「生活費確保の観点から支援対象とすべき切実な事情があると交付主体等が認める場合に限り、採択を可能とする」とも説明を加え、例外措置を設けた。同省は19年12月に地方農政局などを通じて都道府県に通知していた。

同省は19年4月1日付でこれまでになかった目安「前年の世帯全体の所得が600万円以下」を設定。ただ、19年度は要綱には盛り込んでいなかった。また、19年度の目安は事前に説明はなく、「唐突だ」と生産現場に混乱を招いた。このため同省は急きょ、「満たさない項目があった場合であっても、支援対象とすべき者と事業実施主体が判断する場合には、予算の範囲内で採択は可能」と説明した経緯がある。

20年度は、要綱でより所得制限を明確化し、切実な事情を踏まえ対象外とした場合は、交付主体である自治体などに根拠や考え方を整理し、国から照会があった場合は提示することを義務化した。切実な事情は同省として例示せず、交付主体の判断を尊重する。

北海道では特に準備型が影響が大きいという。道立農業大学校の交付主体である道農業公社によると、20年度の申請者(8月時点)は19年度に比べて4分の1に落ち込んだ。親元就農の学生が申し込みしづらい状況となっている。道農業公社は「所得が多くあっても莫大(ばくだい)な投資をしている親もいるだけに、600万円一律の基準に疑問を感じる学生もいる。今後の申し込みについて心配している」と話す。

水戸市の鯉淵学園農業栄養専門学校でも、新たな要綱を説明したところ希望者7人のうち6人が辞退した。19年度は要綱に書かれていなかったが、今年度は要綱に明記されたことで学生らが慎重に判断した格好だ。

経営開始型でも、会社員で退職金が所得に含まれる人は対象外となってしまう恐れがある。新規就農者を目指していた30代会社員は「前年世帯所得600万円で足切りされたら、妻に就農を説得できず、生活費が確保できないので子どももつくれない」と危惧する。

一方、「前年の世帯収入が600万円を超えていても採択していく方針で現時点で問題はない」とする自治体もある。

同省によると、18年度実績に当てはめた場合は経営開始型1割、準備型2割が交付対象から外れる恐れがある。同省は「自治体は要綱を事前に丁寧に説明し、新規就農者を誘致してほしい」と求める。
ことば 農業次世代人材投資事業
2012年度、前身である青年就農給付金事業から始まった。就農前の研修期間に最大150万円を最長2年交付する「準備型」と、新規就農者の定着へ就農から最長5年間、同額を交付する「経営開始型」で構成する。18年度は1万3674人が受給した。